残像

9/21
159人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
両親に恥をかかせないようにと小さな頃から勉強にもスポーツにも全力で取り組んできた。両親に誉められること、優秀な兄と同じ道を進むことが目標で、それ以外はどうでも良かった。 友達と遊んだり、趣味に没頭したり、好きな人を思ったりする事には全く興味が持てず、自分は欠陥人間なのかもしれないと思った事もあるがそれだけだった。何とかしようも思わなかった。 なのに、晶だけは別だった。初めて見たときから気になって、いつも彼を探していた。最初は見るだけで満足していたのに段々彼と話したい、彼に触れたい、そして彼からも思われたいという気持ちが溢れてきた。 愛おしい。 家族にさえ(いだ)いた事がない気持ちを晶にだけ抱く。 彼を守りたい。俺の両腕で大切にくるんで、2度と辛い思いをさせたくない。 これが好きという気持ちだと知った時、初めて生きていて良かったと思った。 その時、携帯に晶からメッセージが届いた。 『ごめん、電車に酔ってトイレで休んでた。もう元気になったからすぐ行くね』 改札の向こうを見ていると、柱の影に佐伯を見たような気がした。が、晶を見つけたけた途端にどうでもよくなった。 来てくれた事がただただ嬉しくて、急いで晶に走り寄った。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!