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これから始まるのは、ある事件の一部始終とそれを取り巻く人間たちの姿を鮮明に捉えたドキュメントである。
舞台は1988年、バブル経済の波に乗り、どんどん明るくなっていく景気に、日本中が胸を躍らせていた時代だった。
そんな世相の中で、自らの命を終えた女性がいた。
彼女は、大学に通いながら、夜の街で水商売のバイトをする、ごくごく普通の学生だった。その年の夏に20歳の誕生日を迎えるはずだった。人生の酸いも甘いも経験することなく、この世を去っていったのだ。身体には、ある男によって刻まれた歪んだ愛の刻印、すなわち性暴力の傷痕があった。
なぜ、一人の若い女性が死を選ばなければならなかったのか。
世間は、そんなことを考えようともせず、彼女の死は次第に人々の記憶から消されてしまった。
しかし、決してそのことを忘れることができない人間がいた。
これは、女性の父親が記した、忌まわしくも悲しい事件の備忘録でもある。
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