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「覚えてないのか? 海の家目前ってとこで倒れたんだよ。お前」
「すぐに目を覚ましてくれてよかった。熱中症じゃないかって心配だったよ」
碧生は僕にスポーツドリンクを手渡す。念のためにということだろうか。
「それでね、倒れたのをあの人が運んでくれたのー」
菜黄先輩が指差す先にいたのは例の魔女っ娘だ。かき氷を食べてる。さっきと同じメロン味の。
「目、出てきたんだね!」
魔女っ娘が僕に向かって、そう言い放つ。ヒロインたちが困惑し僕は妙な汗が出た。
――あの手だ。
PCから伸びた手の正体だと直感的に思った。
彼女は明らかに異質な存在で、どういう原理かはわからないけど、きっとこのゲームにとってはバグだ。バグ女だ。
バグへの対処法は――関わらないに限る。徹底的に避けよう。
「助けてくれてありがとうございます」
簡潔に頭を下げて、その場から切り上げることにした。
「いえいえー」
バグ女はニコニコと笑って、かき氷をまた食べ始める。
――これ以上、何もないのか? ないよな?
「ところでさ」
僕はヒロインたちを見る。当初の予定通り、トゥルーエンド攻略の開始だ。かなり仕様が違うが、ヒロインたちの情報は頭に入っているから、大丈夫。
「ここ、手伝うんだよね?」
僕の言葉にヒロインたちが一斉に「無理すんなよ。寝とけ、寝とけ」とか「無理しなくていいよ」とか「先輩にまかせてくださいなー」とか心配してくれる。
本当に個別ルートじゃなくてよかった。ハーレムルートは死人が出ないみたいだから。
「大丈夫、大丈夫。誰の手伝いしたらいい?」
今度は三人とも同じようにきょとんと不思議そうな顔をした。
「――主人公くんは誰の手伝いをしたいの?」
そう聞いてきたのは碧生だ。
僕は「えっ……」と声が漏れた。
「いきなり、どうしたんだよ? いつも自分が勝手に決めるのに」
赤羽はケラケラと笑いながら言う。
――もしかして、この世界ってセーブもなければ、選択肢もない!?
これって難易度上がってないか……。大丈夫か、僕……。
今、僕は一人、海辺で夜空を眺めている。
全然、大丈夫じゃありませんでした……!
ヒロインたちはもうこの海にはいない。本当だったら民宿で一晩過ごすはずだったのに、僕が全員帰らせてしまった。
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