ある紅茶専門店で

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1. 彼女は夏にだけ現れた。 最初に話したのは2年前のスイカのスカッシュティーの時。 「この赤いのはなんですか? Watermelon って、もしかして……」 カウンターに置かれたメニューから顔が急上昇し、その女性と目が合った。黒目と白目の境界がはっきりしている、という考えに僕は心を奪われ、すぐに答えを返せなかった。 「スイカ? スイカの紅茶なんてあるんですね!」 「はい、こちら今年の新作です。とっても人気ありますよ」自分で答えを見つけた彼女に、僕は定番の説明をした。唇の両端を上げて、なるべく少年ぽい口調で。 仕事のペースを乱してはいけない。彼女はウォーターメロン・スカッシュティーをオーダーし、僕は支払いを受け取った。なるべく彼女を見ないようにしていたが、注文の品が手渡しカウンターに来た時、「きれいな色ですね」と同僚のアルバイトスタッフに言うのが聞こえた。 ウォーターメロン・スカッシュティーは真っ赤なスイカの赤だが、僕は見ていると悲しい気分になる。トマトのリコピンの赤とは違う。不透明に光を跳ね返す赤ではない。どこまでも水気のある、透き通ってしまいそうな赤。
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