忘れ物はそこに

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 あの日、俺は自分の追い続けた夢に限界を感じてしまった。もう努力を、続ける気力を失ってしまっていた。それで気付けば来たこともないこの場所にいた。  やってもやってもやってもやっても、何度諦めを振り切り心を奮い立たせても、今どこを歩いているのかわからない。……死にたくなった。  夏の夜にがむしゃらに自転車を走らせ、なんとなしに道から外れて森の中へ入り真っ青な木を見つけたときだった。崖の下を見ていた少女に声をかけられたのは。  「こんばんわ」だったか。幻想的な場所なのに普通の挨拶をしてこられて、頭が混乱した覚えがある。いかにもお人好しな感じで、見ず知らずの俺の悩みをしっかり聞いてくれた。いや、だからそんな自己的でどうしようもなくくだらない話をしてしまったのか。  色々と話して落ち着いてから、彼女と一緒に七十メートルほど高さのある崖の下を見た。  別に本当に死にたくてこんなところに来たわけではなかった。今思えば日常から離れたかったのかもしれない。人のいない場所、人の発する音や光のない場所へ。  
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