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そしてそれを収めたものが、この世界でのエージェント、ダブルエージェント、すなわち、"A"をもう一つ賜ったものたちである。
雨が降っている。
ヴェルナーは、自分が両親に、不気味だと言われた日のことを思い出していた。
指を指し、怯えた目と、怒りの色で、自分を玄関の先まで追いやって、追い出した。
その日と、全く、全く同じだ。
今の自分も、孤児院を出させられ、行く当てもない。宛にできる人間も、一人もいない。同じ孤児院で育った、兄姉も、世話になったと出て行くときに、ヴェルナーとだけは絶対にハグをしようとはしなかった。
自分に向けられた目は、いつだって怯え恐れ、化け物を見るような目をしていた。
ストリートを歩く。5番も6番も、きっとその先を行ったって、自分に居場所など、ありはしないのだと、川に投げ捨てられたチラシを眺めて。
「お兄さん、お兄さん。地元の方ですか?」
くいくいと、袖を引っ張る感覚がしてはっと、意識を取り戻す。自分の頭の高さにある黄色い傘が少し上の方を向いて、人懐こそうな少女の顔が、パッと、ヴェルナーの方を向いた。
「え、あぁ。うん。そうだよ」
「7番って、どっちかな。フォーク持つ方?」
「あ、7番。いま俺が来た方向だから、ここをまっすぐ。どこに行く?駅?」
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