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しゃがんで、高さを合わせる。上を見上げる少女の首がおれやしないか心配で、もちろんそれは杞憂なのだが、
「うん。おばあちゃんの所まで」
「そっか。気をつけて」
沈んだ気持ちを持ち直し、なんとか笑みを浮かべる。子供の無邪気さは、自分の力を呪う前の純粋さを思い出させて、鼻の奥が少し痛くなった。
「これ、あげる」
「…飴?いいよ、君が食べなよ」
差し出した手には、ポケットに入っていたのか、あったかくて小さい包み紙に包まれた飴が一つ、自分より一回り小さい手に乗っかっている。
「お腹減ってるでしょ?わたしも、お腹空くと、元気なくなっちゃうから」
たぶん、受け取らなければ引き下がらない。気配を察したヴェルナーは、うん、ありがとうと包み紙の捻った片方を摘んだ。瞬間、ほんの一瞬、指の先が少女の手のひらに一瞬触れた時、つんざくような轟音が、耳を貫いた。
(今の…今のは…!!)
「元気になってねー!」
少女は後ろ向きのまま駆け出す。後ろは道路、音が耳を貫いた方向は、左から右へ。間違いない、この後すぐに、この少女は轢かれてしまう。
予感ではない。確実な予知。それを、自分は知っている。
「まって!…ええと、飴の子!!」
名前、名前。だめだ、これではもう聞こえる距離にいない。雨が傘に当たる音がうるさすぎる。
走るか。間に合わない。
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