屋上に向かう

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屋上に向かう

 勤め先の事務所が入っていたビルが老朽化し、別のビルへ移転した。  家からの距離は前とほぼ一緒。むしろ通勤電車が混まない路線でありがたい。  だから俺にとってこの移転は結構なことだったが、こちらビルへ移ってから、自分がちょくちょくおかしな行動をしていることに気がついた。  おかしなといっても、奇声を上げたり暴れたりとかではない。休憩時間などの気を抜いている時に、気づくと屋上へ向かおうとしているのだ。  ここの屋上は誰でも出入り可能で、階段でもエレベーターでも好きな方法で向かうことができる。でも行ったところで特には何もない。都会で暮らしていたらどこにいても代り映えのしない、『ちょっと高い所から見た風景』が見られるだけだ。  なのに俺は、気づくといつも屋上に向かっているのだ。  しかも日増しに、ただ屋上へ出るだけではなく、四方を囲うフェンスに近づいていく。  さすがに自分の行動がおかしすぎて、なるべく気を抜かないようにしているけれど、それでもふと呆けた瞬間、そこから意識がなくなって、気づいた時には屋上のへりにいた、なんてことも起こるようになった。  このビルに来てからの奇行だから、きっとここに何か俺をそうさせる理由がある。そう直感し、色々ビルを調べたら、過去に数人、このビルから飛び降り自殺者が出ていたことが判明した。  多分俺はそいつらと波長が合ってしまったのだろう。だから無意識に呼ばれ、屋上へ…飛び降りる方向へ向かってしまうのだ。  今日上司にそのことを話したら、最初は怪訝そうだったけれど、俺が屋上へ向かう姿は何度も目撃していたため、最終的には話を信じてくれた。  ということで、俺は溜まっていた有休を消化して、寺なりなんなりで飛び降りを防ぐ方法を見つけてくることになった。  それができなかったら自主退社かな。  仕事は命には代えられないけれど生活もあるし…有給期間内に解決方法が見つかることを祈ろう。 屋上に向かう…完
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