魔族の寵愛

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ラファエルが魔族に体を差しだすのは、4歳上の兄のためだった。 兄はある日突然、謎の湿疹が全身に現れ、徐々に全身の力が入らなくなるという原因不明の病に侵された。 両親は跡取り息子の発病にたいそう嘆き悲しんだ。 領主の息子の病に高名な医術師や呪術師がやってきたが、治療の甲斐なく病は徐々に進行し、半年前には寝たきりになってしまった。 ラファエルは兄の回復を祈るため、毎日学校帰りに教会に通った。 まだ16歳の少年には、そのくらいしか兄のためにできることがなかったからだ。 ある冬の夕刻、熱心に祈りを捧げた後、薄闇のなか帰宅を急ぐラファエルに、魔族はあまく低い声で誘いを掛けてきた。 「お前の生気を分けてくれるなら、兄を助けてやろう」 紅い瞳に黒髪の美しい魔族は、この世の物とは思えないほどの禍々しさで笑いながらそう誘ったのだ。 この者の言葉に耳を貸してはいけない。 そのくらいのことはラファエルも承知していたが、両親の嘆きや兄の辛そうな顔が思い出されて、つい足を止めてしまった。
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