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彼は断崖絶壁の端っこに片足乗せて奈落をのぞき見ると震えた。ゴクンと唾を飲む成長過程の喉ぼとけ……滑稽だな。
「ほら。あんただって怖いんだろ?」
彼は屋上のコンクリートに膝をついた。そして、丁度一メートルほどの同じ目線から、お互いの目と目が合う。ぼんやりとした視線が絡まり切らずに、お互いの死の理由を探り合うように見つめ合う。黒髪少年はまだどう見ても中学生の顔つきをしている。真っ黒い大きな瞳を覗くように見つめていると吸い込まれそうになる。ハッと我に返って、ぼくは焦った。
「なんか、バカらしくなった」
精いっぱいの強がりだ。でも、彼はその言葉にホッとしたような顔をして笑った。
「死ぬ覚悟って思ってる以上にエネルギーいるじゃん。こんななら、なにやっても生きていけるんじゃねぇ?」
「たしかに」と思わず納得してしまう。
突然、肩を掴まれた。全身に電流が流れる。キュンと下半身が疼いた。振り向けばもう目が離せなくなる。そんな予感がして、ぼくは戸惑った。
目が合うと、もうダメだった。琥珀にどこか似ている彼も、ぼくと同じように様子がおかしい。ぼくの顔に見惚れる目がとても可愛くて、キスしてしまいそうになる。
「俺は希理。あんた、名前は?」と、聞かれてもすぐに答えられない。舌がもつれてうまく言葉が出ない。
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