第2章

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「ゆっくり話せる場所っていったらここぐらいしか知らなくて」  そこは三階建ての古いテナントビルだった。一昔前のエレベーターのボタンを押し、ぼくらは二人きりになった。僅かに背の高い希理の背中が思いのほか逞しい気がして、ドキドキした。  三階は改装工事にも着手されていない元「心療内科」の個室だった。希理はそんな秘密基地にぼくを招き入れてくれた。お互いに死ぬほど追い詰められた問題を告白するには、世間から切り離された場所が最適と考えたのかもしれない。 「キリって言ったよね? 何歳?」 「今日が誕生日で、十五歳になった」  躊躇いがちに、頬を赤くして教えてくれた希理の顔に見惚れた。どんな感情を隠しているのか、見逃さないようにジッと見詰めると、照れたように目を反らされた。キュンとまた身体の奥が疼いた。 「おめでとう!」  まさか今日が誕生日だなんて。 「そんな日に自殺しようって? なにがあったの?」  聞いてあげたい。容姿に恵まれ、こんな場所を知っている謎多き美少年。育ちの良さを感じさせる仕草や肌の質感。来ている服が安物じゃないことはわかる。十五歳の肉体だけのどういうわけか色気がある気がして。この子もきっと、僕のような経験をしているんじゃないか?  心療内科に通い、自殺まで考えて、あの場所で出会ったぼく達。ほんの少しタイミングがずれていたら会えなかったぼく達。  運命の人。その言葉がはっきりと頭に浮かんだ。 
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