第3章

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 半陰陽という特殊な性別を持つ人は、人離れするほど綺麗なのだと後で知った。でも、自分が美しいという意識は毛頭なくて、希理に出会うまでは、自分が汚い欲望を吐き捨てられるだけの人形と思っていた。  従兄弟の琥珀は私より三歳上。バレエの素質は早くから開花して、伯母さんの自慢の一人息子だ。私の母は琥珀の母親の妹で、姉に対する劣等感は異常だったように思う。息子の私を対抗馬として戦わせようと躍起だったけれど、私が女だと知った途端に不倫に走って蒸発してしまった。数年前離婚した父は新しい家庭を築いていて、そこに私を引き取る意思はない。弁護士を通じて父から仕送りを貰い、私は大学に通うことが出来た。吾妻本家が所有する離れの家が私の住処。そこで一人黙々と勉強に明け暮れる日々を過ごした。希理に再会するまでの間に、少しでもましな自分に成長したいという強い想いだけが心の支えだった。  私のケースや、希理のケースのように、幼少期から思春期にかけて大人から一方的な性被害を受けた子供のための支援を研究したかった。傷付き苦しんでいる人は、自ら立ち直ろうとするまでがとても大変だから。誰にも相談できず、心を病んで自殺を選ぶ若者を助けられるカウンセラーになりたい。生きる希望を見つける力になりたい。  希理の出現は、私を強く変えてくれた。だから、次は私が希理にとっても何か力になれたらと、自力で希理のことを調べた。手始めに、あの心療内科について調べてみたら、有森精神病院の分院だったということを知って、彼のお母さんが芸術家の有森アンであることもわかった。天才画家と呼ばれたアンは、正体不明として謎のベールに包まれている。古い資料で見つけたモノクロ写真では、希理に似てとても美人だった。
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