第3章

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 希理の話によれば、アンさんの愛人に犯されたということになる。少年から青年へと変わる時期の美しさなら、私にもわかる。憧れ続けた琥珀もまた、美少年と称賛されていた。……って、ことあるごとに琥珀を思い出すのはもうやめた筈なのに。自分で自分が嫌になる。  ある日、家のポストに水色の封筒が届いていた。宛名は「Bud of a rose」と綺麗な筆記体で書かれていた。差出人を見ると、空白だった。封筒を開けてみると、白い紙きれが入っているだけで、そこには電話番号らしき数字と家庭教師という文字が書きなぐられていた。私は何か不思議な力に誘われるように、何も考えずに電話をかけた。電話に出た男性の声は、少しくたびれているように感じたけれど、その名前に衝撃を受けた。 『はい、有森でございます。ご用件をどうぞ?』 「あ、あの。有森さん、希理さんの……お宅で間違いありませんか?」  咄嗟に出た名前。私は今にも口から心臓が飛び出しそうなほど緊張していた。 『ぼっちゃんをご存知なんですか?』  その声はかなり驚いていた。私は怖くなって、受話器を耳から離して狼狽えた。何と言えば良いのかわからずにいると。 「あ、もしかして。篠田由幸先生にお願いしていた家庭教師の方ですか?」  篠田先生。それは、私の大学の教授の名前だった。何がどうして繋がっているのかわけもわからずに、話は「ぼっちゃんの家庭教師を探している」という情報に飛び着いた。 「はい! 家庭教師を探してるって聞いて……」 『まずは面接に来て下さい。ぼっちゃんはちょっと特殊な事情を抱えていまして、電話で話のもアレでして……。もしもよろしければ、今からでも?』 「はい! 今からでも大丈夫です!」 『では、星稜公園の入り口にある喫茶店で待ち合わせましょう。一時間後に』
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