第1章

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 もう、やめて。やめてくれ。私を、ぼくを壊さないで……。  琥珀はやっぱり、優しくない……。 ***  小鳥の囀りとやわらかな風に撫でられて、ふと目が覚めた。ベランダのレースカーテンがふわりと揺れて、その向こうには愛しい人が外を眺める背中が見える。  出会った頃は少年だった希理(きり)の背が伸びていることをその後ろ姿に感じながら、私は裸のままバスルームに向かった。シャワーを浴びていると、突然後ろから抱きしめられた。 「おはよう、蕾」と、甘い声で囁かれ、甘く甘いキスが始まる。昨夜の余韻が残る私の身体に、希理の大きな手が触れていく。どこまでも優しい彼の愛撫に身も心も救われた私は、悪夢を振り払うように希理を求めた。濡れた素肌がまだ熱を失わずに、三歳下の恋人にしがみついて、私達はまた深く強く愛し合った。   希理の家。有森家で私が暮らし始めて、もう二年になろうとしている。彼の家族は奇妙としか言いようのない構図。今、一緒に住んでいるのは、希理の父親の(つかさ)さんと、その親友の高村さん、それから希理の母親のアンさんに、アンさんの恋人の英国人のクリスさん。そして、希理と私。  大きなダイニングテーブルで全員が集まって食事することはなく、大抵は高村さんと希理と私、そして司さんかクリスさんのどちらか。司さんとクリスさんは週替わりで、画家のアンさんの助手となり恋人となって、アトリエに缶詰めになる。
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