第1章

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 そう。あの時の私は、まだ心は男だった。  だから、男同士の縄張り争いのようなくだらない言い合いをして、それが絶望していた私を冷静にさせたのだと思う。  私は、インターセクシャル。言い換えれば、半陰陽の身体の持ち主。それは生まれつき性別が曖昧な状態で成長する発達異常で、私の場合、乳房は男のわりに膨らんでいき、陰茎はあるのに幼児の頃のまま未熟、毛は殆ど生えなくて、声変わりしない。どこかで自分は男ではないと気付いていた。でも、そんなことは恐ろしくて誰にも、親にさえも言えなかった。いきなり始まった生理の出血に驚いて、病院で調べてやっと気付いたのが十四歳の時。そこから女になる手術を受け、身体は女になったけれど、心はまだ男と女の狭間で揺れていた。  そして、私は失恋で身も心もズタボロになっていた。  生きる理由を失ったぼくは、あの日。あの屋上で死のうと思い、失恋の苦しさに耐え兼ねて、投身しようと意気込んでそこに居た。半陰陽のぼくを、琥珀は見捨てた。それまで、男の子だったぼくの身も心も全部狂わせるほどに愛した男、従兄弟の吾妻(あがつま)琥珀(こはく)はバレエダンサーとして海外留学に旅立った。  積み上げてきたものを全部捨てるのは、思っていた以上に厳しい。  お母さんの期待をことごとく裏切る結果を招いたぼく。琥珀の家のレッスン室で会う度にふしだらなことしかしない。バイセクシャルの琥珀は、小動物のようなぼくのことをすっかり気に入っていて、いつも支配的な命令と痛くてしつこい悪戯をして、ぼくを壊した。  
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