第1章

2/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 大学を卒業してから初めての夏が来た。同じサークルだった友人たちはみな就職し、それぞれ県外での生活を始めている。そこで夏休みを利用して久しぶりにみんなで飲もうと言うことになった。幹事は相川。五十音順の一番だからという単純な理由だ。  八月のある日、地元の居酒屋の座敷に集まった。総勢二十名。男ばかりのむさ苦しい団体だ。  近況報告や思い出話が一通り出尽くしたところで、相川が突然手を挙げた。 「なあ。百物語でもしないか」  誰かが怪談か?と言った声にいいねえぇと別の誰かが応じると、すぐに皆が車座になった。  だが百物語と銘打ったものの、蝋燭を灯したり一つ語り終えるたびに消したりと言った本格的なものではなく、単純に怖い話を一人ずつ語っていくだけだった。その内容にしても、テレビでタレントが披露していたものや、ネットに出回っているようなものなど、どこかで見聞きしたことのあるものばかりだった。  物好きにもそれは九十九話まで続き、最後に話し始めたのが言い出しっぺの相川だ。〆の話にふさわしく、彼の語り口はそれまでにも増して芝居がかったものだった。 「一年くらい前かな。中学の頃の友人……仮にAとしておこうか……が、突然俺の前に現れたんだ。そいつは卒業と同時に遠くに引っ越しちゃったもんだから、年賀状のやり取りくらいしかしてなかったんだよ。でもまあ久しぶりに会った懐かしさから話が盛り上がってさ。そのまま飲みに行って、気が付いたら朝だった。東の空が白み始めたのを目にして、そいつはもう帰ると言い出した。去り際に、また一年後に会おう、なんて気障っぽい台詞を残してそいつは行っちまった。  それから数日後、俺のもとに一通のはがきが届いた。訃報を知らせるものだった。名前を見て驚いたよ。亡くなったのはAなんだ。さらに文面を読み進めるうちにもっと驚いた。亡くなった日付が、俺と飲んだ日の前日なんだ。俺が一緒に飲んだAは一体なんだったのか……」  口ぶりからどれだけ怖いのかと期待していたが当てが外れた。死んだはずの人と会って話すというありきたりなパターン。彼の話も結局なにかと似たようなものだった。 「なあ、そいつと飲んだのっていつだ?日付は?」 「8月10日だ」と相川。 「なんだよ。それなら一昨日だよな、その友達が言った一年後って。ちなみにそいつと会ったのか?」 「会えるわけないだろう。死んでんだぞ」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!