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ずぶ濡れの僕がボストンバッグを持つと荷物まで濡れてしまうだろうということで斎藤君が持ってくれる。
二人で並んで、宿まで歩く。
道中はずっと二人きりで、夕飯なんだろうねなんて他愛のない話をして、とてもとても幸せだった。
◆
宿に着くとすぐ中居さんが出てきてくれて、ずぶ濡れの僕をみてびっくりした様子でお風呂用であろうバスタオルを何枚も貸してくれた。
帽子も取って拭いてくださいと言われ帽子を取ると「きゃっ!」と声を出して驚かれた。
なぜ?と思っている横で、斎藤君が「内密に。」とそっと声をかけていた。
「あの、あとでサイン……。」
「えっ、えっと。」
「お前、サイン書けるのか?」
斎藤君に聞かれたが書いたことは無い。
「多分無理。」
「だよな。」
僕がオロオロしていると「握手でいいんじゃねーか?」と斎藤君に言われた。
おずおずと手を出すと、しっかり握られて暫く離してもらえなかった。
案内された部屋は宿の一番奥の静かなところだった。
「写真撮らせるとかだと、後々面倒そうだったから握手って言ったけど、大丈夫だったか。」
「うん、まあ。何とか。」
正直好きか嫌いかって聞かれたら、苦手ですとしか答えられないけれど、何とか大丈夫だ。
これ以上誰かとっていうのは無理そうだけど。
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