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目的の駅について電車から降りると、とても小さな駅で人もいなくて僕と斎藤君の二人きりだった。
「先に宿行って荷物預けちゃうか?」
もってきた荷物は服が少しとタオル位だ。
それ以外のものは旅行の荷物というより普段から持ち歩いている様なもので宿に置いておく訳にもいかないので、わざわざ寄り道をする必要がある様には思えなかった。
斎藤君も多分一緒だ。大きなカバンを持っているが多分中身はカメラ関係の機材だろう。
「斎藤君がいいなら先に海に行きたいかな。」
「じゃあ、直接海だな。」
斎藤君が言った。
着いたのは砂浜で、だけど海水浴場という程整備されてない感じの場所だった。
以前二人で行った滝もそうだけれど斎藤君はあまり人のいない場所を沢山知っているみたいだった。
「どうせ、人来ないだろうから荷物その辺に置いておこうか。」
斎藤君に言われた通りボストンバッグを置いてあたりを見回す。
「波打ち際に行ってみてもいい?」
「ああ、好きに過ごしてれば良い。こっちもそれに合わせて写真を撮るから。」
そう言って斎藤君はカメラを取り出す。
「……あのさ、後で少しだけでいいから、斎藤君も一緒に海楽しんで欲しい。」
「ああ。」
斎藤君が目尻を下げて笑った。
波打ち際まで行くと貝殻やウニの殻が打ち上げられている。
この辺を歩くと靴が濡れてしまいそうで靴と靴下を慌てて脱ぐ。
はだしに湿った砂が少し気持ちいい。
ペトペトと少し後をつけながら歩き回るとその姿を斎藤君が写真に撮る。
そんな、何でもない姿を撮るなんて少しだけ恥ずかしい。
「ウィッグと眼鏡取った方がいい?」
「別に針宮の好きな方でいいけど。」
カツラは潮風でべとべとになるかもなと言われてはじめてその事に思い至る。
思った以上に僕は浮かれていたみたいだ。
慌てて裸足のまま鞄のところまで戻ってウィッグをボストンバッグにしまった。
足に砂がこびりついてしまって気持ちが悪いけれど、太陽の日差しで温められた砂を踏みしめるのは楽しい。
思わず口角が上がる。
相当浮かれている自覚はあるのに、止められそうにない。
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