14.目覚めの刻

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『ファウル!ファウルボール!』 ポール際の大飛球に、観衆はさざめく海のようにざわざわと鳴った。また初球だった。4番真哉が振りぬいた打球は鋭い低弾道でスタンドに突き刺さっていったが、惜しくもライトポールの右。 みちるは打球を冷静に見送ると、サインを待つ真哉を見、一つゆっくり小さくうなずいて見せる。事実上、ノーサイン。試合が始まってここまで5球、今日は一度も市村にサインを頼んでいない。 二球目、内角低めへ正確に収まるカーブにタイミングが合わず、真哉のバットは大きく空を切った。この試合、ようやくキャッチャーミットにボールが収まる。しかし、ここまで全打者が全球スイングであるという事実。 何がそうさせるの。いや、まだわずか6球じゃないの。そう思えばそうなのだ。しかしこの試合が始まった当初からグラウンドを包み込んだ空気は何かが違う。なにかいつもと違う糸がピンと張り詰めたまま、ヒリヒリと熱を帯びているように感じるのだ。下手をすればボール球だって満足に見送らず後続のみんなが全部振りぬきにかかりそうな勢いに、みちるは困惑する。 それは打者を打ち急がせ、ランナーを後ろから追い立てている。そして自分の采配にも急を要す選択をはやし立ててくる。 待って、落ち着いて! そんなことを試合が始まった最序盤に口走れば、何のことかと皆首をかしげるだろう。しかし彼女は立ち上がってそう叫びだしたい思いでたまらなかった。 焦っている。この私が? 真哉は三球目を完璧に捉えた。しかし打球は不運にもベースカバーに入っていたセカンド真正面のライナー。打球の勢いに飛び出していた二塁ランナーの良は戻ることができない。 怒涛の勢いで続くものと思われた稲嶺の攻撃は結局わずか7球で終わってしまった。しかしみちるは落胆も驚きもなく、ただ初めての戸惑いと対峙するのみだった。 もともとがタレントの輝くチームだ。個々の能力の高いチームだ。本能を思い出した暴れ馬の手綱が解き放たれているようだ。 ひとりくん、あなたがいないと、こんなにも違うのね。 みちるはもう一度、帽子を深くかぶり直す。
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