14.目覚めの刻

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静止を振り切り、今すぐ矢野雑貨店を飛び出したいところだ。しかし、どうやっても左足が鎖でつながれたかのように言うことをきかない。 『ノーアウト一塁で二番の武田良くん一年生、ここはバントの素ぶりを全く見せません。一球目、強く振っていきますがファウル!力強いスイングの一年生です。松原さん、初回から送らず積極的ですね稲嶺は』 『武田君、よほどバッティングに自信があるようですね。結城君のように中学軟式でも注目されていた選手です』 『二球目、あーっと高めのボール球ですが強く叩きに行ったっー!打球が一二塁間を鋭く抜いて行く!ライト前のヒットになります!そしてランナー香川くんはエンドランでもないのに悠々と三塁を陥れます!あっという間にノーアウトランナー、一三塁!香川君、勢いあまって本塁を狙おうかというところを三塁コーチが慌てて止めます!素晴らしい速攻の稲嶺!』 稲嶺理想通りの速攻が繰り広げられるのを見つめながら、一人は翼と良の強気な姿勢を感じ取る。初回から超攻撃的に畳みかけにかける姿勢を感じる。いや、二人だけではない。その裏にあるみちるの強気を垣間見る。静かなる闘志を燃やしながら盤面を動かしている彼女の思いが選手のプレイ一つ一つからにじみ出ているのだ。 『今日は負傷の矢野君に代わって三番に入るセンター坂本君ですがーーここも初球から積極的にいったっー!センターへ大きな飛球だ!センターがどんどん下がってーー何とか追いつきます!フェンスギリギリへの大飛球!しかしこれは犠牲フライには十分すぎる距離となりました。香川君が悠々生還して県立稲嶺が一点先制です!なんとここまでわずか4球の速攻劇!』 しかし、これはあまりにも功を焦ってはいないか。確かに先頭から爆発力を持つ稲嶺自慢の打線ではあるが、畳みかけ方に”ゆとり”が見えない。 みちる、何を焦ってるんだ。
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