14.目覚めの刻

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「何だか今日は駆け足じゃないか?コールドゲームでも狙いに行くのかね」 翼がつまらなさそうな小走りで本塁に生還したのを見届けて、ベンチ奥の市村はちらりと隣の司令塔を見遣りながら問う。 「別にコールドまで狙ってやってることはないですけど、何です、早く帰れて御の字じゃないんですか?」 心なしか、みちるはいつもより帽子を深くかぶってスコアブックから視線を逸らすことなく答える。 「いやいや、ちょっとびっくりしたもんでね、こりゃ最初からクライマックスっていうか、えらく大振りなタクト(指揮棒)捌きだなと」 「先生、何が言いたいんです?っていうか分かってますけどね、言いたいことは」 少し語気が強くなって、みちるは申し訳ない気がした。しかし市村は気にするそぶりも見せず一言、 「まぁ、雰囲気がね」 そうつぶやいた後は何も発することはなかった。 特別何かを変えたつもりはない。彼がいないことをカバーしようと、特別意識したわけでもない。それでも。 ひとりくんがいないとこんなにも変わるものか。それには正直、みちる自身が一番驚いていた。
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