2章-3

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「……いいだろう。目を逸らすんじゃないぞ」 写真をノエルにも見えるように出してやる。 写真に写っているのは、血だらけで革張りの椅子に座るオデットだ。 祈るように胸で合わせた手には、刃を下に向けてナイフを持っている。 写真は白黒だが、耳の横で結わえた髪はノエルと同じ金髪なのだろう。 ノエルよりも年上だというのに、少女のような可憐さが残る顔つきだ。 彼女の喉から腹にかけての無残な傷。ナイフで裂かれたドレスに血が滲み、首元の傷は動脈を横一直線に切られていた。 (やはり、自殺ではないな) 先に頸動脈を切れば、出血多量でショック死するだろう。 もし、腹から切りつけたのだとしても、痛みで喉元まで切るのはまず不可能だ。 しかも、ためらい傷らしきものもない。 これだけの刺し傷を負わせた犯人は、どんな恨みをオデットに持っていたのだろうか。 (それとも、度を越えた逆恨みか……。頸動脈を切れば天井に届くほどの大量の血が噴き出すはずだが、出血が少ないな。しかも、血がドレスの横方向に流れている。予想通り、殺害は床で行われたに違いない) 生前についた傷であれば、もっと部屋に血痕が残っていなければおかしい。 短時間で大量の血を拭きとることは、至難の業だ。 となると、体を切り裂かれたのは死後だろう。 それに加え、自ら腹を裂いたとしたら袖や手に返り血が付着する。 しかし、それも見当たらない。
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