1章・フランスからの依頼人

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テムズ川の北部にあるウィンコット通り。 身寄りのない者や犯罪者が埋葬される大規模な墓のある地区は、髑髏街と呼ばれていた。 髑髏街には古めかしい屋敷が立ち並んでいる。 しかし、年々酷くなる環境と10年前に流行った疫病のせいで、今は殆どの邸宅に誰も住んでいない。 通りは昼も夜も静まり返り、近頃では盗人や脱獄囚が隠れていると噂されるようになっていた。 おまけにウィンコット通りを過ぎた先には、イーストエンドがある。 貧困地区であるそこは、治安が悪い上にテムズ川下流独特の異臭が漂い、誰も近寄りたがらない。 そんな髑髏街に唯一、貴族の住まうタウン・ハウスがあった。 周囲の邸宅と違い絡まる蔦もひび割れもない純白の壁をした邸宅は、異質な光を放っていた。 長年使われていなかった邸宅に主が帰ってきたのは、2年前の事だ。 由緒正しい英国貴族クロフォード伯爵の子息ルイスは、たった1人でここに暮らしている。
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