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翌朝、2輪馬車に乗ってノエルは屋敷に現れた。
彼の荷物を玄関ホールに置き、ルイスはノエルを連れて目的の場所へ向かう。
髑髏街から2本の路地を通り抜けた先の裏路地。
小回りの利く2輪馬車がようやく通れるほどの狭い道路わきに、そのアパートはある。
鉄格子のはめ込まれた窓が幾つも並ぶアパートは、ロンドンでは一般的なものだ。
このアパートで、オデットは使用人を1人も雇わずに暮らしていたようだ。
「ミラー氏は今もオデット嬢の部屋を借りたままらしい。まだ、未練があるようだな。部屋も事件が起こってから、片づけることなくそのままだ。愛されていたようだな、オデット嬢は。良かったじゃないか」
「……ミラーさんと会ったんですか?」
ノエルはアパートを見上げていた目をルイスに向けた。
「準備が終わっていないと言っただろう? 昨日、テムズ近くにいたのもミラー氏に会いに行った帰りだったんだよ。ちなみに、ミラー氏は事件のショックで、今は片田舎で療養中だ。……夫人と子供も一緒にな」
ルイスがベルを鳴らすと、アパートの大家らしき中年女性が出てきた。
女性はルイスの顔にある傷を見たとたん、訝しげに眉をひそめた。
節くれだった手を顎に当て、ぶしつけな視線をルイスとノエルに向ける。だが、事前に電報を打っていたおかげですぐに中へ招いてくれた。
玄関に入りすぐに見えたのは、白い手すりの付いた階段だ。
オデットの部屋は2階の奥から2番目の部屋らしい。
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