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窓際にあるのは、質素な戸棚と本棚。それから一組の椅子と机、部屋に不釣り合いな革張りの肘掛椅子。
肘掛椅子の下には、赤いスカーフのような布が敷かれていた。
部屋は二つに分かれており、戸棚の隣にドアがある。
それらを一通り確かめると、部屋へ足を踏み入れた。
「オデットはそこにある肘掛け椅子に座り、喉から腹を切り裂かれて亡くなっていたそうです」
「ナイフを右手に握って……だろう?」
三週間前の新聞の片隅に載っていたことを思い出し、ルイスは言った。
部屋をゆっくりと一周し、隣の部屋へ繋がるドアを開く。
ベッドと暖炉、その他には小さな化粧台があるだけの飾り気のない部屋だ。
マントルピースには、ポットと毛布と男性用の着替えが置いてある。
ポットの蓋を取り、匂いを嗅ぐ。
恐らく、中身は紅茶だろう。オデットの死後、放置されていたため、かすかに酸味のある匂いがする。
ポットを元に戻して部屋を出ると、ノエルは肘掛椅子の傍にいた。
「――喜べ、ノエル君。君の大切なお嬢さんは自ら命を絶ってなどいないようだ。君の期待どおり、何者かに殺されている」
「殺された……。誰に殺されたんですか! オデットは誰に――」
「喧しい!」
駆け寄ってきたノエルを、ルイスは一喝する。
「今のは、死にかけの犬みたいな目をしていたお前のための速報だ」
どうやらノエルという男は、気が弱いくせに感情の起伏の激しい性格らしい。
肩に乗ったノエルの手を払いのけ、ルイスはコートの襟を正した。
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