2章・誰が彼女を殺したのか?

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「オデット嬢は亡くなった日、愛人であるミラー氏と会っていたらしい。ミラー氏が言うには、逢瀬の途中で喧嘩をし、彼は部屋を飛び出したようだ。それから暫くして、突然降り出した雨に頭が冷え、彼はこの部屋へ戻ってきた。扉を叩いてオデット嬢に謝るが、返事が返って来ない。不安になり扉を開いた途端、変わり果てたオデット嬢の姿を目撃した」 ミラーとの話を思い出しながら、ルイスは懐からピンセットを取り出した。 「オデット嬢は雨が降り出したのを見て、ミラー氏が戻ってくるかもしれないと、毛布と温かいお茶を用意していたみたいだ。愛しい人を待っている女が、発作的に自害するとは考えられん」 話しながら、ルイスは椅子を観察する。 「オデット嬢は無類の掃除好きだと言ったな?」 「はい。暇さえあれば、布巾を片手に屋敷を拭いて回るような女性でしたから。少し神経質なほど整理整頓された部屋に、いつも使用人たちが困っていました」 「そうだろうな。使用人を雇っていないというのに、ベッドにはしわ一つよっていないし、本は作者と種類別に並んでいる。しかも、室内に積もった埃が驚くほどに均一だ。主がいなくなるまでは、磨き抜かれた部屋だったに違いない。だが――」 膝を折り、肘掛椅子の座面と背もたれの間にできた隙間へ、ピンセットを突っ込んだ。 「それだけの綺麗好きが、愛人を部屋に招き入れる前に、葉巻の吸殻を掃除し忘れるなんて考えられないな」 ピンセットで掴んだのは、火を点ける前にちぎった葉巻の先端だ。 それを鼻先に近づけると、スパイスのような香りに混じって、甘酸っぱい匂いが鼻を突いた。 「伽羅と阿片か……」
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