2章・誰が彼女を殺したのか?

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ロンドンでは馴染のない香りは、東洋から取り寄せたスパイスだ。 深く濃厚な甘さの混じった伽羅の香りに混じり、阿片特有の甘酸っぱい匂いがする。 未熟なケシの実から生産される阿片は、ロンドンでは簡単に手に入れることができる。 だが、阿片を混ぜた葉巻とは珍しい。 通常、使用されるのはエタノールと混ぜた阿片チンキが一般的だ。しかし東洋では、喫煙で阿片を摂取すると聞いたことがある。 阿片の練り込まれた珍しい葉巻の欠片を、ルイスは懐から取り出した薬包紙に包んだ。 「もしかして、ミラーさんが吸っていたのでは? 彼は貿易商ですし、阿片も取り扱っているかも――」 苦々しい表情をしたノエルは、ミラーを疑っているのだろう。 「いや、彼は信心深く、酒も煙草もやらない。……だからこそ、愛人の存在は彼にとって罪の一つだったんだよ。厳しい戒律のせいで、離婚をしたくてもできずにオデット嬢を苦しめたと懺悔していたからな」 肘掛椅子の脚を見ると、何かを擦った跡がある。 「左側の脚にマッチを擦った跡。……犯人は左利きか」
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