2章-2

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再び屋敷を出て馬車も使わずに向かったのは、屋敷の裏手にある教会だ。 古めかしい赤レンガ造りの教会は、昔は罪人が吊るされる場所でもあったらしい。 当時は住民が足しげく通う、集いの場所だったそうだ。だが、髑髏街が寂れた今では、日曜日であっても人がほとんど訪れなくなっていた。 黒い柵に沿って歩いて入口まで回ると、待ち構えていたかのように声がした。 「やあ、そろそろ来るころだと思っていたましたよ」 金属製の黒い扉が軋んだ音をたてながら開く。 出てきたのは、柔らかな草色の瞳の男だ。 年は30代前半。 背中にかかるほどの長さの黒髪を項で結わえ、くるぶしまで隠れる立襟の黒いキャソックを着ている。 片手に持っているのは聖書だ。 しかし、口には聖職者らしからぬ強烈な匂いの紙巻き煙草を咥えていた。 聖人のような微笑みを携えたこの男は、神父グレゴリーだ。 グレゴリーは、ノエルの訝しげな視線をものともせずに、三人を教会へ招き入れた。 「わーい、ルイスちゃんだ!」 敷地に入ったとたん、幼い少女が飛びかかってきた。 この教会で墓守をする少女メルは、無邪気な顔をルイスに向ける。
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