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「――よくも、のうのうと嘘がつけたものだな、このタヌキおやじめ」
幼さを残しつつも聡明そうな声が、人垣の後ろから聞こえた。
人々が一斉に振り向いた先から現れたのは、流行の黒いフロックコートを着た少年だ。
年齢は14、5だろうか。
透けるほど白い陶器のような肌。闇色の髪の間から覗く瞳は深いサファイア色。
黒檀の杖を片手に背筋を伸ばす姿は、少年とは思えないほどの威圧感だ。
美しい容姿をしているが、左の前髪だけが長く、顔の半分がよく見えない。
鋭い目に睨まれた御者は、主人を抱えたまま固まる。
少年は目深にかぶっていた山高帽のつばをあげ、男に近づいた。
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