プロローグ・探偵紳士は死を引き寄せる

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「馬車は左に倒れているが、そちらの紳士は右頭部を打ちつけたようだな」 「……あ、そうみたいですね。馬車が暴走したせいで慌てて立ち上がり、後ろを向いたのでしょう」 「おかしいですね。先ほど、俺の横を馬車が通り過ぎた時には、あれだけ暴走していても貴方の主人は慌てることもなく、馬車の中でぐっすり眠っていたようでしたよ」 少年は馬車の前で膝を折ると、紳士の袖をまくった。 「息を引き取ったばかりにしては冷たいな。それに、死斑がすでに出始めている。どう見ても、死にたてほやほやには見えない」 「うっ……」 「あれだけ馬が暴れていたのなら普通は手綱を引くが、貴方はまるで馬にもっと走れと言うように、鞭を馬に打ち付けていた。しかも、馬車から投げ出された主人を抱き寄せた時、呼吸を確かめることもなく、息をしていないと言っていたな」 「それは――」 男が口ごもった時、騒ぎを聞きつけて見回りの警察官が馬車に駆け寄ってきた。
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