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「何の騒ぎだ」
警棒を片手ににらみを利かせる警察官に、御者の顔から血の気が引いていく。
そんな御者を見下ろしながら、少年は言った。
「なんてことはありません。ただの殺人事件ですよ。馬鹿のクセに大掛かりな偽装工作をしようとした殺人犯が、人々に多大なる迷惑をかけている所です」
状況に不釣り合いな微笑を浮かべる少年に、警察官は首をかしげる。
しかし、顔を蒼白にした御者と紳士の遺体を見たとたん、顔つきを険しくした。
「少し話をお聞かせ願いましょうか」
警察官は警棒を片手に御者に迫る。
「……くそっ!」
歯噛みした御者は抱えていた主人を放りだし、逃げ出そうとした。
「見苦しいぞ、この間抜けな豚野郎が」
少年の杖が御者の足の前へ伸びる。
杖に足を取られた男は前のめりに倒れ込み、地面へ顔をぶつけた。
少年は杖の先を御者の手に向ける。
次の瞬間、耳をつんざく破裂音が通りに響いた。
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