1章-2

1/8
260人が本棚に入れています
本棚に追加
/268ページ

1章-2

居間のソファに腰かけたルイスは紅茶を啜り、正面に座るノエルに目を向けた。 どうやらこの青年は、見かけ以上に人が良いようだ。 紅茶が飲みたいと言えば、他人の家だというのに素直に紅茶を淹れ、おまけに固い木製の椅子に嫌な素振りを見せることなく腰かけ、しきりに薄汚れた服を気にしている。 床に敷いた毛足の長い絨毯を踏まないよう、心なしか爪先が立っていた。 (怪しい噂があっても依頼人が途切れないのは、こういう奴がいるからか) ロンドンで探偵業を営むルイスは、周囲の人々からは不審な目で見られていた。 13歳で名門パブリックスクールを退学し、髑髏街に引っ越してきた貴族の子息。 それだけでも、噂の対象になるには申し分ない。挙句に私立探偵を始めたと知った人々は少年に《変わり者》の烙印を押した。 しかも、若き探偵が引き受けるのは、死にまつわる依頼だけ。 それでも腕は一流で、死人の声が聞こえるが如く難解な依頼を瞬く間に解決する。 年若い英国紳士であるルイスは、いつしか死者の声が聞こえる《死神探偵》と呼ばれるようになっていた。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!