「夏の背中」

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俺の幼馴染、小林日向はいつも突拍子も無い事を言う。国語の授業の後、日向は俺の席 にやって来て話し始めた。 「まあ、確かに?思春期とか青春とかいうけど。つまり、俺らって今人生の春っつー わけでしょ?で、爺さん婆さんになったら冬だろ? まあ、五十歳になったら秋ってのは 百歩譲って分かる。じゃあ夏っていつなんだ?」 日向には、いつも話の前後関係がない。日向の中では会話が勝手に進められているらし い。今日の授業 は対義語に関する話で、青春の対義語は玄冬なのだと言っていた。日向 の中ではその話の続きのつもりなのだろう。 「先生も言ってたけど、人生の夏は朱夏って言って、三十代から五十代のことだよ。 でも、なんか夏って感じはしないよな。」 「それな!どちらかといえば俺らが夏だろ。っていうかマジで腹減ったー。早く食堂行 こうぜ!」 そう言って歩き出した日向の後姿は確かに夏の男に見えた。こんがり焦げたその腕は、 他の野球部員のそれよりずっと力強い。俺は、そうだな、と曖昧な返事をして立ち上が る。いつか俺も日向の様に夏の男になるのだろうか。そんなことを考えながら、すでに 食堂に向かっている日向を追いかける。 廊下に出ると蝉の声がした。今年も夏が来た。
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