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死んだ死因は、分からないらしい。ぼくも葬式にいったけど、彼は顔に笑みすらうかべて、幸せそうだった。こんなこと言うのもどうかと思うけど、死ぬ前の彼と彼の遺体を見ていると、彼は死ねて良かったんじゃないかと思える。
彼が死んだのは、夏も終わりに近い頃だった。ツクツクボウシが秋の訪れを告げていた。この声を聞くと、あることを考えてしまう。
それは、彼はセミだったんじゃないかということだ。彼は、夏の始めにこの町に引っ越してきた。でも、その前の彼が、どこにいたのかわからない。
僕の勝手な妄想だってことはわかっている。だけど考えずにはいられないんだ。彼がなぜ死んだのか。彼が無口になったのはどうしてか。
きっと彼は、僕たちのセミが死んだとき、自分ももうすぐ死ぬと悟ったんだ。それがショックで無口になったんだろう。
彼は、セミにしては長生きだった。夏の間だけ生きていたとしても、ずいぶん長いんじゃないだろうか。
だから、これは、僕の勝手な妄想だ。彼がセミならどうしようと考えてるわけじゃない。だって彼は、ぼくの大事な親友なんだから。
今年も夏がやって来た。ミーンミーン。あのときとは違う鳴き声を聞きながら、かのセミも、このセミも、セミなんだとしみじみおもう。
今日もセミが鳴いている。まるで、失った仲間へ届けようとしてるみたいに、強く鳴いている。
夏の妄想はまだまだ続く。
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