入社3年目。肩こり酷し・・。

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 私は会社勤め3年目の25歳。後輩が入ってきて、もう新人と呑気に先輩社員後をついていく時期は過ぎていた。新人に指示を出し、ほっとしたのも束の間、書類の間違いに気づき、慌ててしかし周囲に悟られぬよう、差し替えた。上司は、今日も隣の席の同僚をどやしつけている。アノ人ハ、部下ヲ怒鳴ルコトデシカ自分ノ価値ヲアピールデキナイ、哀レデ愚カナ人・・。心の中ではそう思っても私は涼しげな笑みを湛え気にしない素振りを装う。とそこへ、背中、肩、首にズドーンの痛み。又来た。多分ストレスだ...。私は今日も、夜10時に会社を出た。会社では颯爽と歩いている自分が今は足を引きずる老人のようだ。今日は家の駅近くの薬局に寄ることにした。お婆さん薬剤師が、いつも一言、励ましの言葉を添えてくれる。痛みについて伝えると、白衣のお婆さんは、ウインクして言った。「今日は 、薬は・・・そう、この椅子に腰かけて待 っていてくれる?よくなる薬を考えるから。」私は促されるまま、お婆さんの横にある脚の高い椅子に腰かけ、足を子どもの様にぶらつかせた。ここは真夜中も やっている変わった薬局だった。お客さんが絶えずやってきては何かしら薬を買っていく。とそこへ、中年男性が、肩と腰が痛いと薬の相談にやってきた。お婆さんはじっと見て、薬を出しながら、丸一日休みなさい、あなた。深呼吸して、もっと自分を労わって。男性はほっとしたように帰って行った。次は、若いサラリーマン。田舎の親からもらった薬、切れたので同じ薬をと。転職しようかと思っているんですよ。いつの間にか身の上話だ。お婆さんは親身に聞いている。今度は夜遅くの仕事帰りの疲れ切った若い母親。保育所からぐずる子どもを引き取っての帰りらしい。少し元気になって帰って行った。夜遅くになるほど並ぶ人が増える。今何時?時計を見ると真夜中1時。そのとき、例のパワハラ上司が来た。彼は私に気づかない。疲れ果てて、どうしたらよいか・・。上司のいつもの挑発的な態度とは打って変わった様子。彼もまた薬を買うというより、人生相談だ。お客さんが途絶えた頃私は、ぶらついていた足を地につけ、お婆さんにお礼を言った。「私、彼らを見ている間に、皆を癒しているあなたの言葉に、自分も癒されました。何度も。肩の痛みも。」「よい薬になって何より。またいらっしゃい。」店を出ると大きな月が出ていた。月を背に真夜中の薬局を後にした。
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