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夏の宵にコンと鳴く
疲れて、疲れ果ててたどり着いた神社の階段で、詩緒は目を閉じた。
眠れなくてもこうしてしばらく目を閉じていると、疲れが少し和らぐのだ。忙しい日々の中で見つけたちょっとした裏技で、仮眠すら取れない激務のときはよくこうして目を閉じて休む。
でも、効果があるのは肉体的な疲労の場合だけだったらしい。
気持ちのすり切れは目を閉じたくらいでは癒えてくれず、気がつくと涙があふれていた。
岩の間から水がしみ出るように、涙は閉じた瞼の間からどんどんにじんでくる。そのうち目の縁に溜まったものが、睫毛を伝って頬や唇に落ちていく。
それでも詩緒は、意地で目を開けなかった。涙を拭わなかった。
目を開けて涙を拭ってしまえば、泣いていることを認めることになる。傷ついて、心が痛くて、それで泣いてしまっているのだと。
あくまで疲れてここに座っているだけ。疲れが少しでも癒えたら、また歩きだすのだ。
そんなふうに自分に言い聞かせながら、詩緒は頑なに目を閉じて涙を流しつづけた。
そのうちに、まどろんでいた。
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