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僕はこれまで、教師としての使命を出来得る限り果たしてきたつもりだ。
生徒指導担当に任命されたのもその実績を評されてのものだと思っているし、真面目に職務を遂行したが為に生徒から嫌われようが仕方のない事だと割り切っている。
元々、誰かと和やかに会話を楽しむ性格をしていないのだ。
それがどうして――
「ねぇねぇよしりんってばぁ~!」
――こんな事になってしまったのか。
「増本先生、だ。何度も言ってるだろうが。」
「え~?でもよしりんはよしりんじゃん。」
「タメ口もやめろ。年上に向かって敬語を使うのは常識だろう。」
「はーい。以後気を付けまーす…よしりん♪」
「………」
女子高生というのは、こうも扱い難いものだったか。
これまで関わってきた生徒は、大体が俺を見ると目を逸らすような奴ばかりだった。それは俺が厳しく指導をしているから仕様のないことではあるのだが、俺もそれで良いと思っていた。
教師と生徒は友人ではない。教師は生徒を正しく導く立場にあって、生徒からは畏怖され慕われる存在でなければならない。
それがどうしたことか。この女子高生…中村優紀は、同級生のようなフレンドリーさで、避けるどころか付き纏い、挙げ句は僕の事を【よしりん】と呼ぶ。
確かに俺の名前は増本芳樹なのであだ名としては問題ないが、それは親しい間柄にあって初めて成立するものだ。
何故か中村自身は周りからミッチーと呼ばれているのだが、さておき。
女というのは、よく分からない。
特にこの、子供とも大人とも区別がつかない、曖昧な時期を生きる女子高生という人種は。
俺のことをあだ名で呼ぼうなんて人間はこれまで居なかったからだろうか。中村は、初めて苦手だと思った人間だった。
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