33人が本棚に入れています
本棚に追加
20 ポテトサラダの隠し味
店に入って来るや否や、精神科医の周防憲忠は言った。
「聞いたよ、樫山君。由梨と付き合ってるんだってね」
店主、樫山宗一は頭を下げ、微笑む。
「いらっしゃいませ、周防さん。相変わらず情報が早いですね」
「由梨がしゃべって回ってんだよ。どんだけ嬉しいのか、あいつ、運命の人を見つけたとか言って、まったく恥ずかしくて見てられないね」
「あはは。なんか、すみません」
「まあでも、やっぱり俺の見立て通りだったな。お似合いだよ」周防は珍しく父親の表情を見せた。
「ありがとうございます。それで、今日は何を飲まれます?」
「とりあえずビールで。あ、それからさ、ポテサラできてる?」
「はい。ご連絡いただいてたので、作ってますよ」
樫山はガラスの小鉢に、ポテトサラダを盛った。もちろん、素手で切ったものばかりだ。
あのあと、樫山はしばらく店を休み、そのまま年の瀬を迎えた。年が明けてから、店に客は4組来た。もう誰の声も聞こえなかった。しかし周防はどうだろう。精神科医であり、さらには樫山に、何かしらの疑いを持つ男。
最初のコメントを投稿しよう!