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1 城ヶ崎由梨の気がかり
この店に看板はない。それどころか店名もない。基本メニューは飲み物だけ。あとは店主の気まぐれで、いくつか食べ物があったりなかったり。
営業時間は水曜から土曜の、夜10時から翌日の深夜1時頃まで。客は1組限定。地下1階、窓のない薄暗い店内に、テーブル席はなく、軽く5人は並んで座れるカウンターに、椅子が2脚のみ。
その日もそこに、1人の女性が座っていた。
「あ、嘘っ。すごぉい! 今、私ポテサラ食べたいなぁって思ってた」
城ヶ崎由梨はそう言って、ポテトサラダを口に運ぶ。
「やっばあ……」
由梨は目を見開いた。大人の女性とは思えない、まるで小学生のような表情だ。
「真夜中にこんなの食べたらやばいよ。おいしすぎて止められないじゃん」
「それは、褒め言葉ととっても良いのですか?」
店主は、薄い笑みを浮かべる。
「うーん、ま、そうなるね」
「ありがとうございます」
「ダイエット中だけど、ま、いっか。私こういうポテサラ好き。べたっと潰してないの。マスターと食の好みが似てんのかなぁ」
「私もこれは好きですので、似てるのかもしれませんね。でも、それだけじゃないんです」
「それだけじゃない?」
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