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「私、料理は苦手で……」
「これは料理というほどのものじゃないですよ。買ってきた具材を合わせる程度です。ドレッシングを作るのが面倒なら、市販の物でもかまいません」
「そ、そうですか。母からはもうすぐ大学を卒業するのだから、簡単な料理くらい作れたほうがいいと言われるのですが」
「猪田さんは大学生なんですね。こんな夜遅くに大丈夫ですか?」
「はい、もう大学4年ですから。来春から院に通います」
「大学院ですか」
「はい。私は料理より、大学での研究のほうが好きで」
「研究が好きだなんて、勉強嫌いの私からすると、尊敬に値します。料理ができなくてもいいじゃないですか」
樫山に褒められ、苑子は頬を赤らめる。
「どんな研究をされているのですか?」
「それは、その……、たいしたものでは」
苑子は言葉を濁した。苑子は大学で藻類の研究をしていたが、それを言うと、樫山にオタクと思われるのではないかと恥ずかしかったのだ。
当然、客が話したがらないことを樫山は追求しない。それに、すでに読心は始まっている。興味もないし、訊くまでもない。話題を変えた。
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