2 猪田苑子の恋

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「私、料理は苦手で……」 「これは料理というほどのものじゃないですよ。買ってきた具材を合わせる程度です。ドレッシングを作るのが面倒なら、市販の物でもかまいません」 「そ、そうですか。母からはもうすぐ大学を卒業するのだから、簡単な料理くらい作れたほうがいいと言われるのですが」 「猪田さんは大学生なんですね。こんな夜遅くに大丈夫ですか?」 「はい、もう大学4年ですから。来春から院に通います」 「大学院ですか」 「はい。私は料理より、大学での研究のほうが好きで」 「研究が好きだなんて、勉強嫌いの私からすると、尊敬に値します。料理ができなくてもいいじゃないですか」  樫山に褒められ、苑子は頬を赤らめる。 「どんな研究をされているのですか?」 「それは、その……、たいしたものでは」  苑子は言葉を濁した。苑子は大学で藻類の研究をしていたが、それを言うと、樫山にオタクと思われるのではないかと恥ずかしかったのだ。  当然、客が話したがらないことを樫山は追求しない。それに、すでに読心は始まっている。興味もないし、訊くまでもない。話題を変えた。
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