2 猪田苑子の恋

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「何かお食べになりませんか?」 「あ、いえ、お腹は減ってなくて……」 「音楽は、このままで良いですか? 何かリクエストがあれば、かけますので」 「え、あ、音楽?」  店内には静かな曲が流れていた。苑子の好きなショパンだったが、緊張した苑子の耳には届いていなかった。 「はい。このままで大丈夫です」 「そうですか」  そこで会話が途切れた。樫山はグラスを磨き始める。  苑子は時計を見て焦った。すでに1時間も過ぎていたからだ。  ――会えたら、いろいろと話そうと決めていたのに……。今だって、ショパンを好きだと言えば会話が繋がって。父のショパンコレクションを聴きに来ませんかと、うちに誘えたかもしれないのに。このままでは何も進展がないまま終わってしまう。
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