33人が本棚に入れています
本棚に追加
「何かお食べになりませんか?」
「あ、いえ、お腹は減ってなくて……」
「音楽は、このままで良いですか? 何かリクエストがあれば、かけますので」
「え、あ、音楽?」
店内には静かな曲が流れていた。苑子の好きなショパンだったが、緊張した苑子の耳には届いていなかった。
「はい。このままで大丈夫です」
「そうですか」
そこで会話が途切れた。樫山はグラスを磨き始める。
苑子は時計を見て焦った。すでに1時間も過ぎていたからだ。
――会えたら、いろいろと話そうと決めていたのに……。今だって、ショパンを好きだと言えば会話が繋がって。父のショパンコレクションを聴きに来ませんかと、うちに誘えたかもしれないのに。このままでは何も進展がないまま終わってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!