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「チャージも飲食代も高額なうちの店が、成り立っているのは、どうしてだと思いますか?」
ふいに樫山が声を発した。
苑子はきょとんとした顔で、首をかしげる。「わかりません……」
「それは、この店が閉ざされている、ということにあります」
「閉ざされている?」
「店名も看板もなく、電話番号も公開していない、窓すらない閉じられた空間。そこにお客様は1日1組。ここが秘密の場所だからです」
「はあ……」
苑子には、樫山の言わんとすることがわからない。
「つまり、ここに来るお客様は、秘密の場所で秘密の話をしたいのです」と、樫山は言葉を足してみる。
「あ、なるほど……」
「そんな閉ざされた店に、誰の紹介でもなく、この店にやってきた方は、猪田さんが初めてです」
樫山は苑子の瞳をじっと見つめる。そのどこか非難めいた視線に、苑子の頬が再び赤く染まる。
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