1 城ヶ崎由梨の気がかり

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「はい。なんとなくお顔立ちなどから推測できるんです。好きな食べ物とか、その程度ですが。だから、こんな商売をしてます」 「ほんとにぃ? なんか超能力みたいで、ちょっと怖いんですけど」 「あはは。超能力だなんて、面白いこと言いますね」  店主の樫山宗一(かしやまそういち)は、微笑みながらさらりと嘘をつく。もうかれこれ、嘘をつき始めて20年近い。樫山の嘘をつく姿は、すっとした涼しげな顔立ちも相俟って、まるで冷たい水のなかを泳ぐ魚のようだ。  樫山には、幼い頃から不思議な能力があった。  それは、人の考えていることがわかるというもの。相手の脳に勝手にアクセスし読心できる、超感覚的知覚だ。  しかしそれには条件があった。  樫山が同期できるのは、彼が素手で触れた物を体内に取り込んだ人間、すなわち彼が作った料理や飲み物を口にした人だけだ。さらには、その人が彼の料理を口にしてから、およそ15分から30分ほどの間、彼の半径10メートル以内にいる人間に限る。  今、樫山自身が語った、「好きな食べ物を推測する」ことも、すなわちその能力の一つだ。 「マスターって、想像してたより若い。年齢って訊いてもいい?」 「構いませんよ。33です」 「へえ。私より9つも上だ。若く見える」 「ありがとうございます」
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