19 店主樫山宗一と客(その3)

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 先の尖った包丁だった。 「え」樫山は、思わずあとずさる。 「君が俺の心臓を刺せば、俺たちの意識は同時に消えるはずだ」  男は樫山の目をまっすぐ見つめた。樫山は鏡の中に引きずり込まれていく感覚に陥り、目をそらす。 「そんなこと、できるわけがない」 「心配ない。俺の心臓を刺した途端、俺はこの世界から消え、君は意識を失う。君が殺人罪で捕まったりはしない」 「じゃあ、由梨は、彼女に万一のことがあったら」 「当然初めてのことだから、何が起きるかもわからない。だが、城ヶ崎由梨が死ぬようなことも、本体である君が消えることもないだろう。ただ」 「ただ?」 「記憶が……、君の記憶が、消える可能性がある」  樫山は鼓動が早まるのを感じた。 「記憶……」  樫山はカウンターに両手をつき、項垂れ、静かに首を横にふった。 「他に方法はないのか?」 「ない。残念ながら、俺はこの方法しか知らない」
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