19 店主樫山宗一と客(その3)

6/12
前へ
/226ページ
次へ
「由梨さん、いま何時ですか?」 「時間? えっと、6時、25分」  間に合った……。  安心した樫山は、ゆっくりと上体を起こした。由梨は慌てて、その背中に手を添える。 「横になってたほうが……」  由梨の手は、シャツの上からでもわかるほど冷えていた。樫山はそんな由梨を安心させようと、胸の前に両手を出し、開いたり握ったりを数回繰り返してから、にこりと微笑んだ。 「まったく、どこも問題ないみたいです」 「ほんとに?」 「はい。なんなら気分がいいくらいで」  由梨は、「人騒がせ。あとでちゃんと病院行ってよね」と眉間にしわを寄せ、涙を手の甲で拭いた。 「ところで、由梨さんは、どうしてここに?」 「どうしてって……。自分でも、よくわからないけど、なんか胸騒ぎがして」 「胸騒ぎ、ですか」 「うん。で、店に来てみたら扉が開いてて、樫山さんが倒れてて。揺すっても動かないし、息してないし、心臓も止まってるみたいだったから……」
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加