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「由梨さん、いま何時ですか?」
「時間? えっと、6時、25分」
間に合った……。
安心した樫山は、ゆっくりと上体を起こした。由梨は慌てて、その背中に手を添える。
「横になってたほうが……」
由梨の手は、シャツの上からでもわかるほど冷えていた。樫山はそんな由梨を安心させようと、胸の前に両手を出し、開いたり握ったりを数回繰り返してから、にこりと微笑んだ。
「まったく、どこも問題ないみたいです」
「ほんとに?」
「はい。なんなら気分がいいくらいで」
由梨は、「人騒がせ。あとでちゃんと病院行ってよね」と眉間にしわを寄せ、涙を手の甲で拭いた。
「ところで、由梨さんは、どうしてここに?」
「どうしてって……。自分でも、よくわからないけど、なんか胸騒ぎがして」
「胸騒ぎ、ですか」
「うん。で、店に来てみたら扉が開いてて、樫山さんが倒れてて。揺すっても動かないし、息してないし、心臓も止まってるみたいだったから……」
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