19 店主樫山宗一と客(その3)

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「え、息、してなかったんですか?」  樫山は由梨の話に、驚いて目を見開く。 「うん。脈もなかった」 「本当ですか」  由梨はゆっくり頷いたあと、「だから……、試しにしてみたんだ」と少し恥ずかしそうに樫山に視線をよこした。 「試してみたって、何を?」 「人工呼吸と、心臓マッサージ」 「えっ! 由梨さんが?」樫山は驚いて、由梨の顔を覗き込む。 「由梨さんが、僕に人工呼吸、したんですか?」 「うん。うまくできたかわかんないけど、救命救急の講習を受けて、やり方は知ってたから」 「救命救急の講習、ですか……」 「ほら、昔溺れたとき、樫山さんに人工呼吸してもらって、助かったたことがあったでしょ。だから誰かの役になれたらって」  樫山は、男の言葉を思い出す。  ――由梨のことは、俺の方が知ってる。  あいつは、由梨が人工呼吸ができることを知っていた?
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