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「え、息、してなかったんですか?」
樫山は由梨の話に、驚いて目を見開く。
「うん。脈もなかった」
「本当ですか」
由梨はゆっくり頷いたあと、「だから……、試しにしてみたんだ」と少し恥ずかしそうに樫山に視線をよこした。
「試してみたって、何を?」
「人工呼吸と、心臓マッサージ」
「えっ! 由梨さんが?」樫山は驚いて、由梨の顔を覗き込む。
「由梨さんが、僕に人工呼吸、したんですか?」
「うん。うまくできたかわかんないけど、救命救急の講習を受けて、やり方は知ってたから」
「救命救急の講習、ですか……」
「ほら、昔溺れたとき、樫山さんに人工呼吸してもらって、助かったたことがあったでしょ。だから誰かの役になれたらって」
樫山は、男の言葉を思い出す。
――由梨のことは、俺の方が知ってる。
あいつは、由梨が人工呼吸ができることを知っていた?
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