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「ところで由梨さん、僕の他に、店で誰かを見かけませんでしたか?」
「え、誰も見てないけど。お客さんいたの?」
樫山は包丁を厨房へと戻しながら、答えを探す。そして嘘をついた。
「いえ。鍵を開けっぱなしだったので、少し心配しただけです」
これが最後の嘘であるようにと願いながら。
「ところで樫山さんって、車で来てるの?」
「いえ。飲まされることもあるので自転車とか、歩きです」
「じゃあ、私、車で来たから、家まで送ったげる」
「え、車って、由梨さんが運転してきたんですか?」
「うん」
「城ヶ崎家のお嬢様に送っていただくなんて、申し訳ないです」
「私はお姉ちゃんと違ってお嬢様じゃないから平気だって。で、荷物は?」
由梨は厨房に勝手に入り込み、「これ?」と樫山の鞄を持ち上げる。
「あ、はい」
「あとは、電気を消してっと。鍵は持ってる?」
「はい。鞄も自分で持てますから」
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