19 店主樫山宗一と客(その3)

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「ところで由梨さん、僕の他に、店で誰かを見かけませんでしたか?」 「え、誰も見てないけど。お客さんいたの?」  樫山は包丁を厨房へと戻しながら、答えを探す。そして嘘をついた。 「いえ。鍵を開けっぱなしだったので、少し心配しただけです」  これが最後の嘘であるようにと願いながら。 「ところで樫山さんって、車で来てるの?」 「いえ。飲まされることもあるので自転車とか、歩きです」 「じゃあ、私、車で来たから、家まで送ったげる」 「え、車って、由梨さんが運転してきたんですか?」 「うん」 「城ヶ崎家のお嬢様に送っていただくなんて、申し訳ないです」 「私はお姉ちゃんと違ってお嬢様じゃないから平気だって。で、荷物は?」  由梨は厨房に勝手に入り込み、「これ?」と樫山の鞄を持ち上げる。 「あ、はい」 「あとは、電気を消してっと。鍵は持ってる?」 「はい。鞄も自分で持てますから」
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