19 店主樫山宗一と客(その3)

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「だめだめ。階段で転んだら大変」  まるで母親のような由梨。樫山の鞄を抱え、店を出ていく由梨の後ろ姿を、樫山は見つめた。  ――由梨さん、本当にありがとう。そして、僕の、いや僕らの人生に、君を巻き込み、苦しめ、悲しませてしまったこと、本当にすまない。  いつか、君にすべてを話すときがくるかもしれない。そのとき、君は僕を許してくれるだろうか? 「うわ、明るくなってきてる」  地上に出た由梨が、眩しそうに右手で顔を覆った。陽の光を浴びた、由梨の血色の良い顔が、樫山を少しだけ安心させる。  由梨の横を歩きながら、樫山も目を細めた。「朝ですね」  店から歩いて3分ほどの場所に、小さなコインパーキングがあった。そこに停めてある一台の赤いコンパクトカーに由梨は近づき、樫山を手招きした。 「樫山さん、乗って乗って」 「ありがとうございます。これは、どなたの車ですか?」  樫山が車を眺めながら尋ねた。 「私のだよ。自分で買ったんだ」由梨は慣れた手つきで精算機に金を入れる。 「へえ。やるじゃないですか」 「低燃費、で、低価格」
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