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「だめだめ。階段で転んだら大変」
まるで母親のような由梨。樫山の鞄を抱え、店を出ていく由梨の後ろ姿を、樫山は見つめた。
――由梨さん、本当にありがとう。そして、僕の、いや僕らの人生に、君を巻き込み、苦しめ、悲しませてしまったこと、本当にすまない。
いつか、君にすべてを話すときがくるかもしれない。そのとき、君は僕を許してくれるだろうか?
「うわ、明るくなってきてる」
地上に出た由梨が、眩しそうに右手で顔を覆った。陽の光を浴びた、由梨の血色の良い顔が、樫山を少しだけ安心させる。
由梨の横を歩きながら、樫山も目を細めた。「朝ですね」
店から歩いて3分ほどの場所に、小さなコインパーキングがあった。そこに停めてある一台の赤いコンパクトカーに由梨は近づき、樫山を手招きした。
「樫山さん、乗って乗って」
「ありがとうございます。これは、どなたの車ですか?」
樫山が車を眺めながら尋ねた。
「私のだよ。自分で買ったんだ」由梨は慣れた手つきで精算機に金を入れる。
「へえ。やるじゃないですか」
「低燃費、で、低価格」
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