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由梨はふざけたように、「お嬢様ですけど、こういうの乗るんです」と言い、運転席に乗り込む。
「自分でお嬢様とか言うの、やめた方がいいですよ」
助手席に腰を落ちつけ、樫山も笑った。
「あ、そういえば」と由梨はシートベルトをしめながら、独り言のように呟いた。
「なにも、聞こえなかった。樫山さんの、心の声。樫山さん、気を失ってたからかな」
一番気になっていたことを聞け、樫山はほっと胸をなで下ろす。「どうでしょうね」
由梨が車のキーを回すと、心地よいエンジン音が響いた。
「樫山さんの家って、ここから近いんだよね?」
「近いですよ」樫山はそう言いながら、腰を浮かせ、由梨に覆いかぶさるように近づき、由梨のシートベルトを静かに外した。
「え、な、なに? なんで外すの?」
驚く由梨。樫山は自分のシートに体を戻し、そして表情を変えず、前を向いたまま言った。
「もう一度、試してみませんか?」
「え?」
顔を赤くした由梨に、樫山は顔を近づける。由梨の体が横を向き、瞳がふわりと泳いだ。そして、まぶたが閉じられる。
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