20 ポテトサラダの隠し味

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20 ポテトサラダの隠し味

 店に入って来るや否や、精神科医の周防憲忠(すおうのりただ)は言った。 「聞いたよ、樫山君。由梨と付き合ってるんだってね」  店主、樫山宗一(かしやまそういち)は頭を下げ、微笑む。 「いらっしゃいませ、周防さん。相変わらず情報が早いですね」 「由梨がしゃべって回ってんだよ。どんだけ嬉しいのか、あいつ、運命の人を見つけたとか言って、まったく恥ずかしくて見てられないね」 「あはは。なんか、すみません」 「まあでも、やっぱり俺の見立て通りだったな。お似合いだよ」周防は珍しく父親の表情を見せた。 「ありがとうございます。それで、今日は何を飲まれます?」 「とりあえずビールで。あ、それからさ、ポテサラできてる?」 「はい。ご連絡いただいてたので、作ってますよ」  樫山はガラスの小鉢に、ポテトサラダを盛った。もちろん、素手で切ったものばかりだ。  あのあと、樫山はしばらく店を休み、そのまま年の瀬を迎えた。年が明けてから、店に客は4組来た。もう誰の声も聞こえなかった。しかし周防はどうだろう。精神科医であり、さらには樫山に、何かしらの疑いを持つ男。
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